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筑波山の峠

筑波山の峠

月曜の夜、天気予報を見てみると翌日は一日中晴れマークでした。
もちろんその日は早めに布団へ潜り込み、翌朝4時に起きだし自転車を
車に積み、急いで筑波山へと向ったんです。
急いだ理由というのは、どうしても暗いうちに山麓に到着し
薄暗いうちに走り始めたかったんです。
なぜなら、そのコースは自転車乗りなら誰もが走る、いや、走らなければ
ならないコースなのです。何故ならその峠を登りきるタイムが
各々の脚力スコアになり、『不動(峠)はどのくらい?』 この問いにより、
見栄を張っても謙遜しても、だいたいお互いの力が分かる、
早い話、脚力を計る物差しのような走路(一般道ですが)なんです。
だからこそ体育会系サイクリストにとっては練習場、
一般サイクリストには試験場みたいなもんです。

それほど皆が走るメジャーなところゆえ、たとえ平日といえども
明るくなると大勢の人がタイムを競って爆走するのです。
私はというと、はなっからそんな気の無い、のんびりサイクリングなので
彼らと重なりたくないのです。なぜならお互いに邪魔な存在だからです。

”その日”は六時前には山麓に到着し、リュックを背負い
足早に踏み出しました。
10月初旬の夜明けとは、遅いわりにはまだ風は冷たくなく透明な秋の
涼気が暗闇を徐々に浄化し、朝陽を呼び寄せているような、そんな
心地良い時間帯であり、樹々の吐き出すマイナスイオンを胸一杯に
吸い込めば登り坂でも足どりは軽いもんです。
そして、なによりも機嫌が良かったのは、私の他、誰もおらず
人気の道路を独占できてたのも理由でしょう。

その”不動峠”を無事登り切り、いつもは八郷方面に下るのが定番
なのですが何故か ”その日” は尾根づたいに加波山まで行こうと
表筑波スカイラインを走り、風返し峠から真壁に向かいました。
その頃にはもう完全に陽は登りきっていて微かな風吹く爽やかな
朝になっていました。 (六時半位でした。)

十五分ほど進むと”これより桜川市”の看板、
ほどなくすると右側に山道の入口があるんです。
山道とはいっても完全舗装されているのですが、環境保護の
為でしょうか、車止めがあり四輪車の進入を拒んでいます。
もっともそこは、大量の落ち葉や小枝が道を覆ってしまっている箇所が
多数あるので、車どころかバイクや体育会系サイクリストにも不向きな
山道となっています。
だからでしょうか、何度も走りましたが誰とも会う事なく、
いつも私専用道路のようでした。
よって、フラフラ走る私にとっては登り坂とはいえ絶好のコースであり、
なお嬉しいことに道の右手には驚くほど澄んだ清流が流れ
目を楽しませてくれていたんです。

             あるひとつの物を除いて、、、、、

それは、その山道を入った左側に小さな仏像(観音像?)なんです。
なんでこんなとこに?
目にはいるたび横目で見てましたが、けっして落ち葉等をかぶってる
ことなどなく、常に誰かが手入れをしているというのは明らかでした。
そしてどういう訳か清流の方を向いているんです。
近くにいってみると何とも不吉な感じのする場所なのです。

場違いな物、、   あまり気分の良いもんではありません。
(しかし、この話を進めていくとその仏像の存在に納得がいきます。)

その日は山道に入った時にはたぶん朝七時を回っていたはずです、
眩しいほどの天気だったのを記憶しています。
それから快調に坂を上っていったんです
別にトレーニングでもないので本当、フラフラという言葉が
ぴったりのスピードで、、、



しばらくすると坂の上から一人の男性がゆっくりとこちらに
歩いてくるのが見えました、
十月ともなれば山菜やキノコのシーズンです。
こういう時は、自転車でも登山でもハイキングでも、
たとえ知らない人であろうと挨拶するのが礼儀で、
声をかけ合うのがアウトドアの作法みたいなもんです

青い上着をを着た60歳位の壮年の方でした。
間違いなく、断じて間違いなく、青い”ブレザー”を被っていました。
2~3メートルの距離まで近づき眼が合いました。

          『おはようございます!』

するとその方も伏し目がちに会釈で返してくれたのです。

しかしながら ”何でこの人こんな場所でブレザーなんか羽織ってんだろう、
観光地でもなし、、、 
”なによりこんなとこまでどうやってきたんだろ、上に車停めてんのかな?
いや、向こうも車止めあるから入れるわけないかぁ、、

すれ違う1~2秒前、そんな疑問が湧いたんです。
私は向かって左側走っていました、すると、すれ違う瞬間に異変を
感じたんです。右耳と右の首に氷を押し付けられたような感覚です。

               『うっ、冷て!』

思わず声が出てしまいました。
二呼吸した後あたりペダルから足を下ろし、
         『なんなんだよ、こりゃぁよぅ、、、、』
ブツブツ小声で後ろを振り返ると、、、   いない、 いないんです!
今、それこそ3秒前にすれ違った男性が忽然と消えてしまったんです、、、、

なんだか軍手をしている手首から先が震えています、、

下の歯茎を中心に口の周りも震えていました、、、、

『ありゃりゃぁ、、オヤジ、川でションベンかぁ?』

今、目の前で起こっている事実が怖くて怖くてどうしようもなく、

     『こんな事あるわけないじゃん、、、、、馬鹿らし、、、、
          ”絶対絶対俺は認めないぞ!』

自分の中で、くだらないお笑い話にして片づけてしまおうと、
するとそんな ”ションベン”なんて言葉が出ていました。

一応ガードレール越しに清流を覗き込んだんですが、、、 いない、、、   
いないよぉぉぉ、、、    反対側は高い高い壁、、、、、、

        ”とにかくここを離れよう!”

       ”どう考えても普通じゃない、、、”

逃げなきゃと本能的に察しサドルに尻を乗せたんです、

引き返せば下りだから楽である、しかし万が一、下でオヤジが
待ってたら、、、

何のためらいも無くハンドルを峠に向けペダルを踏みこ、、、、、

その瞬間、足が動かなくなってしまったんです!
もの凄く寒く、空気が凍っているような、まるで
冷蔵倉庫にはいったような、、、
頭はパニックになり逃げようにも体が動かない、、
動くのは目だけでした。
急に息苦しくなり、歯を食いしばり目を強く閉じ、

落ち着け、落ち着け、落ち着け!
心の中で大声で叫んでいました。

ものの5秒程だったとおもいます、体が動かなかったのは、
震えまくってる手をハンドルにのせペダルを踏むと、、 
踏めた!!  一番軽いギアを選択し、なんとか走りだしたら
とんでもないことに、、   気のせいかもしれませんが

       背中のリュックを引っ張ってる!

嫌な気配が 『行くな!行くな!』 叫んでるのがわかります。
このまま止まったらリュックごと引きずられ持っていかれる!

と、その時、亡き父親がいつも言っていた言葉を
思い出したんです。

『法華経は経典の王様だ、いかなる時でも心に持ってろ!』

口を閉じ前歯を噛みしめ鼻で呼吸をしながら必死で唱えたんです、
法華経を唱え続けたんです。
するとどうでしょう、 ”フワッ” と顔正面に生暖かい風が当たり、
嫌な気配が消えました。

             『た、たすかった!』

いつしか登り道も頂上に到達し、平坦になった頃、
右の肩越しから後ろを振り返ると、
           
       また、誰かいる!  それも、歩いてる!!

気のせいでしょうか、それとも恐怖のあまり
幻覚症状に陥ったんでしょうか?
前屈みに腰を曲げた手ぶらのおじさんがこっちを向いていたような、、

       気が狂いそう、いや、狂う寸前でした。

追いかけてこられる恐怖と戦いながら絶対に立ち止まったり
振り向かないと決め必死に九十九折りを駆け下りていきました。

県道7号線に辿り着き車を見た時の安堵感、強烈な喉の渇き、、、
腕時計に目をやると朝の7時39分、 確実に覚えています。

その日は即、真壁からリンリンロードで北条まで戻り、
竜ヶ崎へ逃げ帰りました。

もういいでしょう、この悪霊道路はどこか明かします。

筑波山湯袋峠と上曽峠を結ぶ道、地図に小さく書かれています。

後日、お客さんでわざわざ岩瀬から来てくださる警察官のAさんに
この日の出来事をすべて話たんです。
旧岩瀬は現在桜川市となっておりAさんは桜川署勤務なのです。

すると、ポツリと、
『ああ、あそこな、自殺するのが多くてよぉ、よく行くよ、、、』

        やっぱり、、、、、、、、、、、

だからあんなとこに石仏あるんだ、、、

人がめったに入らず、静かな林道、美しい清流、仏像に見守られ、、、、
自殺する人が集まるのも頷けます


 
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出典元:筑波山へ行かなくなった理由
http://fuji-riyoukan.jugem.jp/?eid=78

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